この記事の対象読者: 従業員を雇用している中小企業の経営者・人事労務担当者 最終調査日: 2026年4月3日(施行直後の最新情報に基づく)
はじめに——今回の改正で何が起きるのか
2026年4月1日、健康保険法の改正が施行されました。中小企業にとって最も影響が大きいのは、「子ども・子育て支援金」の徴収開始です。これは健康保険料に上乗せされる新たな負担で、業種や従業員規模にかかわらず、社会保険に加入しているすべての企業と従業員が対象です。
もうひとつの柱である保険医療機関の管理者要件の強化は、医療機関(病院・診療所)を経営する事業者に限定された話であり、一般的な中小企業には直接の影響はありません。
この記事では、一般の中小企業が「結局うちは何をすればいいのか」をすぐに判断できるよう、実務的なポイントを整理します。
1. 子ども・子育て支援金——具体的に何が変わるのか
制度の仕組み
子ども・子育て支援金は、少子化対策の財源を社会全体で支えるために新設された制度です。従来の健康保険料とは別に、支援金が上乗せされる形で毎月徴収されます。
仕組みは健康保険料とほぼ同じです。従業員の「標準報酬月額」に「支援金率」をかけた金額を、会社と従業員で半分ずつ(労使折半で)負担します。賞与についても同様に計算対象です。
負担額の目安
2026年度の支援金率は 0.23% です。具体的な負担額の目安は次のとおりです。
- 標準報酬月額が30万円の従業員の場合:月額690円(会社負担345円+本人負担345円)
- 標準報酬月額が50万円の従業員の場合:月額1,150円(会社負担575円+本人負担575円)
従業員100人(平均標準報酬月額30万円)の会社では、会社負担は年間約42万円になる計算です。
この支援金率は段階的に引き上げられ、2028年度には0.4%程度になる見込みです。同じ条件で試算すると、2028年度の会社負担は年間約72万円に増加します。
対象事業者の範囲
業種・従業員規模・売上規模による除外はありません。健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)に加入しているすべての企業が対象です。子どもの有無も関係ありません。
なお、育児休業中で社会保険料が免除されている従業員については、支援金も徴収対象外です。
2. いつまでに何をすればいいのか
すでに始まっていること
支援金の徴収は2026年4月分の保険料から開始されています。多くの企業が採用している「翌月徴収」の場合、2026年5月支給の給与から天引きが始まります。当月徴収の企業は4月支給分から反映されます。
企業が対応すべきこと(チェックリスト)
① 給与計算システムの確認 多くの市販の給与計算ソフトは自動アップデートで対応済みと想定されます。ただし、自社でカスタマイズしたシステムや手計算の場合は、支援金率0.23%を反映する設定変更が必要です。健康保険組合に加入している企業は、組合ごとに料率が異なる場合があるため、所属組合に確認してください。
② 保険料率変更のタイミングに注意 例年の健康保険料率変更は3月分(4月徴収)ですが、支援金は4月分(5月徴収)から始まるため、4月と5月の2回にわたって保険料の変更処理が必要になる可能性があります。自社の徴収タイミングを再確認しましょう。
③ 従業員への周知 給与の手取りが減るため、従業員から問い合わせが増えることが予想されます。こども家庭庁からは、給与明細への支援金額の表示について「協力をお願いしたい」とされていますが、法的義務ではありません。少なくとも、社内通知や掲示などで制度の概要と負担額の目安を従業員に伝えておくことが望ましいでしょう。
④ 社会保険料の納付事務 毎月の社会保険料納付に支援金分が加算されます。新しい保険料額表は、協会けんぽや各健康保険組合から配布されていますので、内容を確認してください。
経過措置
支援金率は段階的に引き上げられる設計になっています。2026年度は0.23%からスタートし、2027年度に1回目の引き上げ、2028年度に0.4%程度で段階的導入が完了する予定です。
3. 想定されるコストと負担
直接的なコスト(会社負担の支援金)
| 従業員数 | 平均標準報酬月額 | 2026年度の年間会社負担 | 2028年度の年間会社負担(見込み) |
|---|---|---|---|
| 10人 | 30万円 | 約4.2万円 | 約7.2万円 |
| 30人 | 30万円 | 約12.5万円 | 約21.6万円 |
| 50人 | 30万円 | 約20.7万円 | 約36万円 |
| 100人 | 30万円 | 約41.4万円 | 約72万円 |
システム改修費用
市販の給与計算ソフトを利用している場合、通常のアップデートで対応されるため追加費用は発生しないケースが多いです。独自システムの場合は、改修内容によりますが、支援金率の追加と控除項目の新設が主な対応になります。
専門家への相談費用
既存の社会保険労務士・税理士と顧問契約がある場合は、通常の顧問料の範囲内で対応いただけることが多いでしょう。新たに相談する場合の費用は個別に確認してください。
4. 保険医療機関の管理者要件の強化について
この改正は、病院や診療所を運営する事業者向けのものです。2026年4月1日以降、保険医療機関の管理者(院長など)になるためには、臨床研修修了後に病院で保険医として3年以上の診療経験が求められるようになりました。
すでに管理者として就任している医師には経過措置があり、2029年4月1日までに新要件への適合が求められます。
一般の中小企業(医療機関以外)にはこの改正の直接的な影響はありません。
5. 同時期に施行される関連法改正(中小企業に影響があるもの)
2026年4月は「法改正ラッシュ」とも言える状況で、中小企業に関係する複数の改正が同時に施行されています。合わせて対応が必要なものを整理します。
健康保険の被扶養者認定の見直し(2026年4月)
いわゆる「130万円の壁」に関する運用変更です。これまで実績ベースで判定していた年間収入を、労働契約の内容(時給×労働時間×日数)に基づいて判定する方式に変わりました。一時的な残業で130万円を超えそうになっても、契約上の見込みが130万円未満であれば被扶養者として認定されます。パート従業員を多く雇用する企業は確認が必要です。
女性活躍推進法の改正(2026年4月)
従業員101人以上の企業に対し、「男女の賃金の差異」と「管理職に占める女性の割合」の情報公表が新たに義務化されました。従業員301人以上の企業には、女性管理職比率の公表が追加されています。
労働安全衛生法の改正(2026年4月)
高齢者の労働災害防止措置が努力義務化されました。60歳以上の労働者に対し、転倒防止や腰痛予防などの安全対策を講じることが求められます。また、将来的には50人未満の事業場にもストレスチェックの実施が義務化される予定です(公布から3年以内に施行)。
在職老齢年金の見直し(2026年4月)
65歳以上の従業員について、年金が減額される基準額が月額51万円から62万円に引き上げられました。高齢の従業員が働きやすくなる変更です。
その他(2026年中に施行予定のもの)
- 障害者法定雇用率の引き上げ(2026年7月):民間企業の法定雇用率が引き上げられます
- カスタマーハラスメント対策の義務化(2026年10月予定):事業者にカスハラ防止措置が義務づけられます
- 社会保険の適用拡大(2026年10月):いわゆる「106万円の壁」の見直しが予定されています
まとめ——中小企業が今すぐやるべきこと
最優先(すでに施行済み)
- 給与計算システムが支援金率(0.23%)に対応しているか確認する
- 5月支給の給与で正しく天引きされるか、テスト計算を行う
- 従業員に対し、手取りが減る理由を通知する(社内掲示、メール等)
早めに対応
- 協会けんぽまたは所属の健康保険組合から届いている新しい保険料額表を確認する
- 女性活躍推進法の情報公表義務の対象になるかどうか確認する(従業員101人以上の場合)
- 高齢の従業員がいる場合、労働災害防止の取り組みを安全衛生計画に盛り込む
今後に備えて
- 2026年10月の社会保険適用拡大・カスハラ対策義務化に向けた情報収集を始める
- 支援金率の引き上げ(2027年度・2028年度)に備え、人件費の見通しを更新する
注意事項: この記事は2026年4月3日時点の公開情報に基づいて作成したものです。今後、ガイドラインや運用通知の発出により取り扱いが変更される可能性があります。具体的な対応については、顧問の社会保険労務士や税理士にご相談ください。
参考情報
- こども家庭庁「子ども・子育て支援金制度について」(https://www.cfa.go.jp/policies/kodomokosodateshienkinseido)
- 厚生労働省「医療法等の一部を改正する法律」関連資料
- 社会保険労務士法人ヒューマンテック経営研究所「2026年4月施行 主な法改正事項のまとめ」