2026年4月1日、厚生年金保険法の改正が施行された。中心的な変更は2点で、在職老齢年金の「働き控え」を招いていた壁の引き上げと、離婚時の年金分割請求期限の延長である。いずれも事業主による行政手続きは不要だが、60代以上の従業員を雇用している企業にとっては雇用設計の見直し機会となる。
具体的な変更内容
在職老齢年金の支給停止基準額の引き上げ(第46条)
在職老齢年金とは、厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受給する65歳以上の方について、月収と年金の合計が一定額を超えると超過分の2分の1が支給停止される制度である。改正により、この基準額が月額48万円(直近年度は51万円)から62万円に引き上げられた。
具体例として、月収40万円・年金月額20万円の高齢社員の場合、改正前は合計60万円が基準48万円を超えるため6万円が支給停止されていた。改正後は合計60万円が新基準62万円を下回るため、年金が全額支給される。この変更により、支給停止の対象者は全国で約50万人から約30万人に減少し、新たに約20万人が年金を全額受給できるようになる。
離婚時年金分割の請求期限の延長(第78条の2)
民法の財産分与請求権の除斥期間延長に合わせ、離婚時の厚生年金分割を請求できる期限が離婚後2年以内から5年以内に延長された。なお、経過措置として、2026年3月31日以前に離婚した場合は従来どおり「2年以内」の期限が適用される。新しい5年期限が適用されるのは2026年4月1日以降の離婚から。
対象事業者の範囲
在職老齢年金の変更は、65歳以上の厚生年金被保険者を雇用している全業種・全規模の事業者に関係する。業種・従業員数による条件はない。人手不足が続く業種(製造業、小売業、介護・医療など)では、高齢社員が就労時間を増やしやすくなるため、実質的な効果が大きい。
離婚時年金分割の延長は個人の権利に関するものであり、事業主が手続きを行う場面はない。
まとめ
今回の改正で事業主が対応すべき届出・申請・システム改修はない。ただし、定年再雇用後の高齢社員が年金減額を意識して就業時間を抑制していた場合、制度変更を周知することでフルタイム勤務への移行を促せる可能性がある。社員(特に60代以上)への制度説明資料を用意し、希望があれば社会保険労務士に相談を案内するとよい。