2026年4月1日、「公益信託に関する法律」(公益信託法)の施行に伴い、相続税法第12条(相続税の非課税財産)および第21条の3(贈与税の非課税財産)が改正されました。この改正は、信託銀行・税理士事務所・公益法人・NPOを直接の対象としています。一般的な中小企業の日常業務(給与計算・消費税申告等)への影響はありませんが、相続対策として公益信託の活用を検討している経営者や、顧客に相続対策を提案する税理士にとっては実務上の確認が必要です。
具体的な変更内容
改正前: 「特定公益信託」(旧信託法に基づく)の受託者が遺贈・贈与によって取得した信託財産は、相続税・贈与税の非課税財産として扱われていた。
改正後: 2026年4月1日施行の公益信託法に基づく新たな「公益信託」の受託者が取得した信託財産について、同様の非課税措置が明確化された。改正点は以下の2か所:
- 相続税法第12条:非課税財産の規定に、新制度の公益信託受託者への財産移転を明記
- 相続税法第21条の3:贈与税の非課税財産についても同様に整備
旧制度の「特定公益信託」は廃止されず、新制度の公益信託と並存する経過措置が設けられています。既存の特定公益信託は引き続き有効であり、新制度への移行は任意です。
また、相続財産を公益信託の信託財産とするために支出した金銭を相続税の対象外とする特例(租税特別措置法第70条)も引き続き適用されます。この特例の適用には、相続税の申告期限(相続開始から10か月以内)までに支出すること、および主務大臣(内閣総理大臣)の認定を受けた公益信託への支出であることが要件となります。
対象事業者の範囲
以下の事業者・個人が今回の改正の直接的な影響を受けます。
信託銀行・信託会社: 新制度の公益信託の受託者として実務対応が必要。内閣総理大臣への認定申請や、顧客(委託者)に対する新旧制度の説明義務が生じる。
税理士・会計士事務所: 相続対策として公益信託の活用を顧客に案内している場合、新制度と旧制度の違いを正確に説明できるよう知識を更新する必要がある。申告書(第14表)の記載方法にも若干の変更が生じる可能性がある。
公益法人・NPO: 公益信託として認定を受けようとする場合、新たな公益信託法に基づく申請手続きを確認する必要がある。
資産管理・相続対策を検討している個人(資産家・事業オーナー): 財産の一部を公益信託に拠出することで相続税の課税対象から外す節税策を検討している場合、新旧制度の違いを税理士と確認する。
一般的な中小企業(法人): 直接の影響なし。
対応期限とスケジュール
- 施行済み(2026年4月1日):改正後の条文はすでに有効
- 相続税申告の期限:相続開始を知った日の翌日から10か月以内(公益信託への支出もこの期限内に行う必要がある)
- 旧制度(特定公益信託)の経過措置:期限未定。既存の信託は有効だが、新制度への移行スケジュールは各受託者・委託者が確認する
想定されるコストと負担
| 関係者 | 対応コスト | 内容 |
|---|---|---|
| 信託銀行 | 中〜高 | 新制度対応の社内規程整備、顧客説明資料の更新 |
| 税理士事務所 | 低〜中 | 改正内容の学習、申告書様式の確認 |
| 公益法人・NPO | 中 | 新法下での認定申請手続きの確認(行政書士等への相談が必要な場合あり) |
| 個人(委託者候補) | 低 | 税理士への相談費用(時間単価により異なる) |
申告書の様式変更は軽微とみられ、税務ソフト側での対応が見込まれる。専門家費用については通常の相続税申告報酬の範囲内で対応可能とみられる。
対応チェックリスト
信託銀行・信託会社の担当者向け:
□ 2026年4月までに、既存の「特定公益信託」契約に関して顧客への説明資料を更新しましたか □ 新制度(公益信託法)に基づく公益信託の認定申請手続きを社内で整理しましたか □ 顧客(委託者候補)から「旧制度と新制度の違いは何か」と聞かれた際の説明準備はできていますか
税理士・会計士事務所向け:
□ 相続税申告書(第14表)の記載方法が改正後も変わらないか、国税庁の最新様式を確認しましたか □ 公益信託への支出が相続税の非課税特例(措法70条)の対象となる要件を最新情報で把握していますか □ 顧客に公益信託の活用を提案する際、旧制度・新制度の並存期間中の取り扱いを説明できますか
まとめ
今回の相続税法改正は、2026年4月に施行された公益信託法との整合を図るための技術的な改正です。一般中小企業への直接的な影響はありませんが、信託銀行や税理士事務所、公益信託の組成・活用を検討している事業者は、新旧制度の並存関係と申告手続きの要件を確認する必要があります。旧制度の特定公益信託は廃止されないため、既存の契約を直ちに変更する必要はありません。